今年でもう22歳になるのに、まだ親がだるい。
両親が妹の文化祭に出かけ、私は昼まで熟睡していた。目が覚めて30秒もすれば、家族全員が家を出たあとであることが家中から伝わってくる。すこーんとした静けさに、気分がすうすうと晴れてくるのだ。小さく雨音がする。きっと、あと1時間はだれも帰らない。いそいそと階下へ向かう。
飼い犬がガタガタっと音を立てて、(なんだ、まだ人がいたのか)と驚いていた。驚かせてごめんね。ずっと寝てたの。洗面所の扉を開けたまま、普段しないパックをして、トースターに食パンを入れ、歯を磨く。自由だ。くるくるとターンを決める。食パンに目玉焼きをのせて、ブランチにした。部屋に戻って雨戸を開けると、太陽は高く雲も厚かったが、素晴らしい夜明けである。
とびきりの部屋着を着たかったので、「ONIKU」と書かれたTシャツを選んだ。これで家を出れない。
スマホの充電が切れていたけれど、充電はせずに、図書館で借りた『街角さりげないもの事典』を開いた。紅茶はアッサムを選んだ。カップは『めぞん一刻』の柄を選んだ。昨日深夜に読んでいたのだ。
チョコを食べたくなったので、いただきものの麦チョコを選んで、誰かが陶芸体験で作った小皿に移した。入れすぎたかしらん。少し戻す。
面白い本だ。
外で声がした。いやだ、もう帰ってきたのかしら。玄関がにわかに騒がしくなる。「おーい!」3回目で返事をした。「さっき電話したのに!スパゲッティ食べに行くかー!」と大声。外へ?なんて面倒な!呆れた。「いや…、いい!」「ピザもあるよ!」
…ピザ!揺れるが、でも、いい。何が嬉しくて両親と3人でご飯など。耐えられない。きっと詮索だの説教だの何かしら面倒なことが起こって、ピザも麺も味などするものか。
「雨だし、いい!2人で行ってきなよ!」さっきより少し強くなった雨足に感謝する。かくして、2人はもう一度出かけて行った。
…ピザか。ピザは食べたかった。それに、真ん中っ子の私には両親と3人という機会もそうそう、いや、一度もないかもしれない。親孝行の一環だと思って、行けばよかっただろうか。悪いことをした。詮索されるなんて、考えすぎだったろうか。
お腹が空いたので、残りもののハンバーグを温めながら、ピザのことを思った。
インターホンが鳴って、姉に品名ビューティーの小包が届いた。(例のTシャツのまま外に出たが、こういうときコートを着れないのは夏の困ったところだ。)毎日この人宛に何かしらが届くな、と考え、そのことを知っている自分に、引きこもりの素養を感じてその不健康を案じる。
一時間ほど経ったろうか、母親が帰宅した。部屋まで上がって来たので、「美味しかった?」と聞いてみたら、調子づいて、「美味しかったよォ、来たらよかったのに!気晴らしにもなるし、お父さんにもいろいろ相談できたんとちゃうん?」
ほうら、きた!!これだから!!心底、行かなくて良かった。
気晴らし?私には、この家に1人でいるのが一番の気晴らしなのだ。
相談?「相談?相談ってなに?」「いろいろあるんとちゃうん、相談…」なんとぼんやりしているのか。私は正直、こんな"奥さん"にはなりたくないと思っている。それに、私が父に相談することなど何もない。何か話したところで、否定か説教、意見の押し付け。これがいいとこだ。
こんなことを書きながら、なんて贅沢なんだろうとは、思うのだ。母の作ってくれたハンバーグだし、父の建てた家である。なんと長い反抗期なのだろう。それでもやはり、これが正直な気持ちなのだから、ますます辟易する。
親に感謝を、と言うとき人は、本当に心底親を慕っているのだろうか。理解できない感覚なのだ。血が繋がっているだけの、養ってくれるだけの、前時代的で、そりの合わない人たちなのである。
追記
佐藤勝利さんのラジオを聴いた。前々から彼をくんづけとか呼び捨てとかで呼べない原点を思い出した。尊敬しているので、しょりぽんぬ先輩と呼んでいる。(尊敬しているので。ちなみに錦戸先輩も同様の理由であまり呼べない。)
彼は方々で自分が厳しく躾けられたことに対する感謝を語っている。父親をヒーローと呼び、歌にしている。なおママ呼びを公言していて「日本的な感覚じゃないから」とドヤ顔。ぐぅの音もでない。カッケェっす先輩、、。
「腹が立つよねえ!食べさせてもらう側がさ、、俺本当に思うよ」に始まり、家事はマストじゃない、そもそも1人でするもんじゃないといつもより昂って繰り出される言葉に、我が母を思って涙してしまった。彼はわがまま自体は否定せず、"人を傷つけるわがまま"を否定した。
そういえば、少し前に母が父を完全に無視していた期間があったのを今思い出した。いつの間にか終わったな。母の日にもらった花も適当に世話していたのに、ふたりで文化祭に行ってくれてよかったな。
私とはそりは合わないけれど、2人はもっと幸せになってほしい。そうは思うよ。彼らを傷つけないわがままだけ、これからも貫いていきたい。
胸に刻んだ。