間ヒロの週末丁寧連載

ズボラ連載という一言矛盾を脱し、週一の丁寧を目指しています

青い髪

髪を染めた。

 

私は相当おめでたい人間なので、髪を赤く染めたら「アリエルみたい!」とときめくし、青く染めたら「セーラーマーズみたい!」と鏡に向かってウインクをキメてしまうのだが、皆もそうだろうか。そうであってくれ。

 

一体あれはいつのことだったか、全く思い出せないが、駅の公園口ですれ違ったお姉さんのつらっとした巻き髪に目を奪われて、首からぐるりと一回転してしまった。そのときに見た、青く光る深い黒髪に憧れて、美容院にカラーに行く度に青にしたいです青にしたいですと言っていたのだが、青は入りにくいよすぐ落ちるよと言いくるめられ、気づけば就職前の最後の春休みになってしまっていた。今度こそ青にする、青は無理だよと言われたら帰ってやろう、と強い覚悟を決めて美容院に向かった。

 

余談だが、その美容院は異常に蒸しており、入った瞬間に眼鏡が曇り、肌は湿り、心は翳った。カラー前に、スチームを当てますねとさも当たり前のように言われ、はい、とこちらもさも当たり前のように返事をしながらそれでこの湿度なのねと納得し、いや、いつもはされないことなので何の意味があるのかは分からないのだが、我は風の子湿度の子、さすがは温暖湿潤気候で生まれ育っただけあり、「スチーム」を当てられるとなんとなくうれしく、心地よく、安心するのだった。

 

青はもともと暗い色だから黒を混ぜたらほんとに地毛みたいになっちゃうよと言われたが、いえ、私地毛明るいので大丈夫です、私、失敗しないので、とは別に言っていないのだが、ともかくそれにしてもらった。青に、してもらった。あのかつてのお姉さんみたいになるには、巻き髪を練習しないといけないのだが、青は落ちやすいからなるたけ熱を当てない方が良いらしい。………待てよ。と、いうことは、あのお姉さんのあの髪色、あの髪型はきっととても儚いものだったのではないだろうか。もしかしたら何回も青に染めていくうちに色落ちも遅くなっていくのかもしれないが、、 彼女の大事な日だったのかもしれない。私は今日から青い巻き髪を、儚さの象徴として扱っていくことにしよう。

 

…かくして私の青髪は始まった。とはいえ来週まで持てば万々歳だ。たぶん、みんなは見ても青だって分からないよ。私だけが分かってるのよ、青だって。時たま髪をほどいて見つめては、黒のような青さを発見してほくそ笑むのだ。