忙しい忙しい!
パックに詰められた秋鮭の色の美しさにあてられてちゃんちゃん焼きを作ったり、
「味玉」という魅惑の響きに憧れておでんに大量の卵を投入したりしている ああ!忙しい
冒頭の色は、「鮭色」と言うらしい。どうりで、唯一無二の美しさであった。
数ある日本の伝統色の中でも、魚に因んだ色名があるのは『鮭』くらいなものです。
ちなみに、サーモンピンクの和名は「乾鮭色」らしい。鮭の干物を「からさけ」と読ませるのが風流である。
ちゃんちゃん焼きは世界で一番おいしいし、ゆで卵は労力の割に失敗のリスクも高く味も至って普通。
急にゆで卵に親をころされた少年の真似をしてしまったので、いま北半球が暗転したのかと錯覚した方もいらっしゃるだろう。
が、ゆで卵には恨まれて然るべき性質がある。
茹でながらころころ混ぜないと黄身が寄ってしまったり、氷水を用意しないといけなかったり、殻を丁寧に剥かないと白身がごっそりいかれてしまったり、おいおい、貴様いったい何様のつもりだ、と呼び止めざるを得ない。いわば姫ポジ。卵料理界の姫である。
そのくせ、ただ割ってレンチンしたときと味がほほ同じ。レンチンの場合は黄味に穴さえ開ければ爆発も防げるというのに、ゆで卵の工程の多さはあまりにも前時代的である。
そんなオワコンゆで卵だが、世間では脳死でチヤホヤされ続けている。許されざる事態である。
私とゆで卵の確執は、小学生の頃の調理実習を発端としている。殼を剥くのが下手すぎてキノコ型にしてしまい、「なるほどこいつとはやっていけない」と幼心に確信したのだ。
今回も、剥き方に少々失敗しているばかりか、黄身が見事に偏ってしまっていたので、私怨が尽きない。コロコロ転がしていた時間が虚無であったことが判明し、またそれが時間差で判明するのがなんともにくたらしい。このようなタイムラグはゆで卵を置いて他に無い。
なお、玉子焼きやだし巻きも基本的な料理であるわりに難しく、専用のフライパンを必要としたり、卵液は3回に分けて…などのたまったりと、なかなかのわがままぶりだが、あの造形のためには必要な工程であると頷ける。
失敗報告にラグがあることも無く、むしろ他のどの料理よりも即時的に伝わる。社会人の鑑。あと上手く巻けなくても最終問題ない。
玉子焼きは砂糖とだしの配分によって家庭ごとに様々な味付けがあることから「家庭の味」を思い出せる一端を担っており、「おふくろの味」としては手軽なほうであろう。
それに比べて、ゆで卵に家庭の味を見出すことは困難である。なんという傍若無人か。
と、さんざんにゆで卵をこきおろしてきたが、これはある種の愛情表現であって、たんに卵おいしいよね!と書くのではつまらないので、改めてそのややこしさについて考え、書き殴ってみた次第である。手のかかる子ほどかわいいではないか。
ちなみにしばらくは卵をゆでたくない。
ところでこれは完全に私の責任だが、せっかく半熟卵にしていたのに、おでんに入れて温め直していたらほぼ完熟になっていた。そらそう。
おでんに半熟卵ってもしかして無理?どうなん?