一昨日の続きです。
お土産のハス茶 - 間ヒロの週末丁寧連載
スーパーではクレカが使えた。さて、帰りのバスに乗るための現金をキャッシングしたい。サービスカウンターでATMがあるか聞いたら、売り場の隣の空間に案内された。さっきの警備員さんと目があって気まずい。
おっと、トイレもある。私は歓喜した。
ATMは3台あり、おばあさんが1人使用中だった。台によってレートが変わったりしないだろと適当に選んだら、英語が表示されなかった。
嘘!?英語なし!?
隣の台も試したが、ベトナム語の一点張りだ。
まあ数字だからなんとかなるかと雰囲気で進めたが、焦りが蓄積されていたからか、肝心の数字も何を言っているのかよく分からなくなってしまった。それまでドン→円の計算はゼロを3つ消して6掛け、でやっていたのだが、急にその法則がごっちゃになり、表示されている金額がものすごい大金に思えたのだ。画面をじっと見つめていたら、ATMの方からキャンセルされてしまった。
もう一度隣の台でやってみると、こちらの方が最小で引き出せる数字が小さい。
これ…でいいのか?小さすぎるか?足りない?分からない…脳内はパニックだ。とりあえず押してみるも、手数料がいるのか。そりゃそうだ。う、うわぁああぁぁ…………
私の思考は完全に渦を巻き、私の後ろにはにわかに人が並び始めた。
もう、無理。
急に私は全てを一旦諦め、トイレに行くことにした。
ATMを離れると、私の後ろに並んでいたおばさんに呼び止められた。手には、50,000ドン札。
……?
…………
………誰の?
3秒ほど無言の時間が流れ、そして私は決意した。
誰のでもいいや。
oh!!sorry!!!!と急にデカい声を出しておばさんからお札を受け取り、そそくさとトイレへ向かった。
個室の鍵を閉めて考える。
これ……誰のだろう。私、引き出せたのかな?神様がくれたのかな……
ふと我に返り、銀行口座のアプリを開いたら、
-629
-110
という身に覚えのない2件の出金履歴があった。
これ……………
か。
全然、私のお金でした。良かった。国際指名手配を免れた。手数料110は思ったより安いけど、レートはカスいな。いやほんとにカスくない?まあいっか。これで空港まで帰れる。
私は安堵して、いつの間にか雨の止んだ外へ出た。
行きで降りたのと同じバス停へ向かう。
スーパーのWi-Fiで調べたらここから103便に乗れと書いていたのだが、バス停の看板を見ると103の文字が無い。
あれれ〜、おっかしいぞぉ〜?
15分ごとに来るとは書いていたが、最終便までのタイムリミットは30分。
夕方で交通量も増えており、ありえない量のバイク音とクラクションが不穏な空気に伴奏する。
ふっと、103と書かれたバスが、こちらに車線を変えずに通り抜けていった。
ふむ………。呼ばなければ停まらないとは聞くが、もしここが103便の停まるバス停じゃなかったら、「迎車」のタクシーを一生懸命捕まえようとしている可哀想な人みたいになってしまう。
意を決して、近くの店先で孫と納豆ご飯みたいなものを食べているおばあさんに空港への行き方を聞いてみたら、毎度のことながら一単語も通じなかった。
が、奥にいたお母さんを呼んでくれて、Google翻訳で会話をする。
Google翻訳は、言語をダウンロードしておくとオフラインでも使えます。最高。天才。素晴らしい。星5つ。
Googleマップも事前に指定地域をダウンロードできるし、それをしていなくても現在位置だけはいつも分かるようになっている。星5つ。
SIMがなくても、Googleのアプリがあればなんとかなります。
お母さんが言うことには、ここで待っていれば良い。バスが来たら一緒に呼んであげる。
緑のパラソルを指差し、103便の車体の色が緑であることを教えてくれた。
まあ途中からGoogle翻訳なんて放棄してたからぜんぶ雰囲気だけど。
つまり、Googleのアプリが無くても、最悪ボディランゲージでなんとかなります。
15分くらい待っただろうか、遠い豆粒の時点で103便の車体に気づいた一家が全力でバスを止めてくれ、(物理的に)背中を押されてバスに乗せられ、お母さんもバスに半分乗り込んで運転手に何やら大きな声で話しかけた。
たぶん、「コイツ空港いきたいんやて!言葉全然わかってないみたいやから面倒見たって!」って言ってたんだと思う。しらんけど。
もう一度謝意を表そうと窓から振り返ったら、もうこっちなんて全然見ていなかった。
人助けのあとのほっこりに浸りたい時間みたいなの無いんだな…とちょっと新鮮に感じた。
バスに乗るといつも、運賃のやり取りをしたり次やで!と教えてくれたりする乗務員のおばさんがいたのだが、今回は見当たらず、
代わりに、緑のつなぎを来た男の子が運転手さんと大声で話していた。
私がおろしたての50,000ドン札を見せると、額が大きすぎたからなのか、なんなのか、「少女漫画で最初やな奴だったイケメン」みたいな笑い方をされた。
彼はおもむろに自分の財布を出しておつりをくれたあと、運転席へ近づき、会計をしてくれた。
そして次の駅で彼は降りた。
乗務員じゃなかった。
またもや、窓から振り返って会釈しようと思ったら、もうこっちは見ていなかった。
やっぱり、人助けをしたあとの感謝されたいという気持ち、あんまり無いみたいだ。
自分がいままで人助けをしたときは、「感謝されたい」というある種打算的な気持ちがあったのかもしれないな、と気付かされたのだった。
お兄さんが降りてから渋滞が酷くなり、5分の道に30分かかった。運ちゃんはずっと大声でキレ散らかし、ひとキレごとにひと高笑いしていた。その車内で通話しているおばさんもいた。そして一単語も分からない私。
音声を録って「夢.mp4」としてYouTubeに上げようかと思ったが、もしかしたら放送禁止用語のオンパレードかもしれないし、個人情報をめちゃくちゃ喋っているかもしれないのでやめた。
空港が見えて、運転手さんが何やら言い、乗客がみんな私の方を見た。
次やで。
私はうなずいて立ち上がる。
もう会わない人だと思うと陽気になれるタチなので、私は朗らかにTHANK YOU!とウインクするかのような勢いで言って、空港に足を下ろしたのだった。